PROJECTSプロジェクト紹介

PROJECTS #01

チタン事業

異文化を超えて活路を拓く
海外現地生産プロジェクト
~ サウジアラビア王国でのスポンジチタン生産ストーリー ~

スポンジチタンは、電気分解という製造工程において大量の電力を消費して作られる金属である。東邦チタニウムのスポンジチタンは、日本の電力単価の高さをものともせず、高い品質で世界をリードしている。とはいえ、台頭する海外メーカーに対向するためにも価格競争力の強化は重要な経営課題であった。中でも、海外現地生産は電力等のコスト低減が期待できる切り札だ。『サウジアラビア王国 合弁企業プロジェクト』は、2019年に操業を開始した新工場建設であり東邦チタニウム初の海外生産拠点である。その実行メンバーに話を聞いた。

最適に組み合わされた海外進出の条件

「初めての海外現地生産が、なぜサウジアラビアなのか? “そこにグッドパートナーがいたから”というのが大きな理由です」と話すのはサウジアラビア・プロジェクトの特命役員となった前川だ。
東邦チタニウムが海外に新規の工場を建設する際、重視したことが主に3つあった。電力を安く調達できること、原料(四塩化チタン)が入手できること、そして初期の投資負担を軽くできることである。サウジアラビアとそのパートナー企業はその条件すべてに適合した。

「サウジアラビア側にしても、脱石油や海水淡水化事業など、将来に向けて新しい産業を構築したいところでした。当社のチタン製造技術に、その可能性を見出したと思います」(前川)。

お互いの目的は合致し、現地に合弁会社を2016年2月に設立し、スポンジチタン新工場の建設がスタートした。日本の製造業ではあまり例のない国との合弁事業。その実現には多くの困難も予想された。

[サウジアラビアの新工場(ヤンブー)]

サウジアラビアの新工場(ヤンブー)

サウジアラビアに最新鋭工場を設計

本プロジェクトの施主は日本の東邦チタニウムとサウジアラビア企業との合弁会社、工場建設を担うプラント建設会社も日本と台湾の合弁会社だったため、現地にはアラビア人、インド人、パキスタン人、台湾人などの多国籍な人々が集まっていた。
日本の東邦チタニウムも設備技術グループが現地に入り、建設状況や工事品質の確認・管理業務を行っている。機械設計担当の野中は振り返る。
「現地での資材関係の入手が非常に困難でした。新工場の基本的な設計は、最新設備が導入された“若松工場のコピー”という話で進みましたが、実際には取り合い部分や作業・整備で脱着する箇所等については現地で入手し易くする工夫が必要なため、JIS規格(日本産業規格)ではなく、米国規格であるANSI/ASME規格に変更しました。このため、設計の一部を作り直しています」。
野中は、資材調達の窓口となる商社に相談し、入手可能な材料を調達。他にも現地周辺の資材会社や製函工場をつぶさに見て回り、使用可能な部材を探した。

多民族現場でのコミュニケーション

「私は電気設備の設計をしています。プラント建設会社と一緒になって生産設備の図面チェックをしたり、作業現場を見て仕上がりを確認していました」と話すのは工場の電気設備を設計した太田だ。

「設備の維持・保全のため、現地で技術者を教育しました。スポンジチタン製造工程の知識はないので、新入社員のように現場へ連れて行き、基本から教えました。工事現場には多様な人種がいるのでコミュニケーションには特に気を配りましたね。英語で指示を出しますが、頭ごなしにすると反発されます。お互いの価値観や意見の違いを理解し、少しずつ進めていきました」(太田)。

日本のものづくりは理解されるか

工場建設の段階で、東邦チタニウム側が対応した業務は主に2つに分かれる。ひとつは野中・太田のように、現地での機械や設備の設計とその運用に関わるスタッフの現地人材の教育。そしてもうひとつは、製造技術者の教育だ。サウジアラビア側のエンジニア70名を日本の若松工場に呼び、技術研修を実施。スポンジチタンの製造方法を基礎から教えている。教育担当の一人だった上杉はこう振り返る。
「サウジアラビアの方々の技術習得は順調に進み、作業自体は問題ないレベルに計画通りに到達しましたが、いわゆる日本の5S活動のような、ものづくりの考え方を理解いただくのは苦労しました」。
上杉の他に、日本で教育・研修にあたったのが松山だ。
「実は2012年に新卒で入社してすぐに上司から “いずれ海外に行ってもらうよ、スポンジチタンを作る現場で、サウジアラビアの人に技術を教えてやってくれ”と言われまして(笑)、それで日本の茅ヶ崎と若松の2つの工場を経験し、スポンジチタンの製造技術を徹底して学びました。私が身をもって覚えたことを若松に来たサウジアラビアの人に手取り足取り教えました。実際にサウジに行ったのは2017年です」。

日本人との違いをよく理解する

サウジアラビアの研修生が日本で技術習得にいそしむ間、生活面の面倒を見たのが経理担当の小林だ。
「彼ら、何も分からない状態で日本に来ました。若松工場の周辺に研修寮を建設し、約2年間スポンジチタン製造の研修教育を受けながら日本の文化・生活に慣れていただきました。しかしルールを押しつけるのではなく、彼らの宗教や生活習慣に対応することが大事です。特にハラルの食事には気をつけました」。
小林はサウジアラビアの合弁企業で経費管理、支払や請求業務など経理も担当している。日本の商習慣との違いに戸惑いや苦労を感じながらも、現地のビジネス構造や法制、アラブ人の仕事に対する価値観を理解していった。

[還元・分離テスト(第1回試験バッチ)]

還元・分離テスト(第1回試験バッチ)

一人ひとりの成功体験を未来へつなぐ

2013年から始まった『サウジアラビア・プロジェクト』において、ひとつの到達点が還元・分離実験だ。最も大きな達成感を得た瞬間である。それは2018年8月に成功した。

「私の場合、遠い異国の地で日本のクオリティと同じような設備を導入でき、それがきっちり稼働して製造できたということで、大きな手応えを感じました。それまで、簡単な試運転でひとつひとつの稼働状況を確認してきて、最後に一連の流れを見るのですが、スポンジチタンの塊がラインから出てきたときに、そこですべてが整ったと思いました。技術チームの一員として非常に誇らしい瞬間でした」(野中)。

2022年5月現在、サウジアラビアの新工場は徐々に操業率を上げていき、スポンジチタンは増産体制に入った。2023年度中に100%操業(年産能力15,600t)を目指している。

「2022年上期はワールドワイドでスポンジチタンの需給が逼迫していて、東邦チタニウムには多くの注文が寄せられています。サウジアラビアの工場を最速で生産拡大させ、世界マーケットにおいて当社の存在感を増していきたいと考えています」(前川)。

計画・建設当時のあらゆる不安は払拭され、いま、まさに追い風が吹いている。関わったすべての人にとって、かけがえのない成功体験となった『サウジアラビア・プロジェクト』。その成果を踏み台に、さらに個人やチームの可能性を広げ、事業を次のステージへ確実に成長させるだろう。

PROJECT MEMBER

  • 前川 豪智Maekawa Hirotomo

    常務執行役員
    サウジアラビア・プロジェクト担当役員
    2020年より常務執行役員

  • 野中 泰之Nonaka Yasuyuki

    技術本部 設備技術部
    機械グループ
    2007年入社
    茅ヶ崎工場勤務

  • 太田 直哉Ohta Naoya

    技術本部 設備技術部
    電気計装グループ
    2006年入社
    茅ヶ崎工場勤務

  • 上杉 昌嗣Uesugi Masatsugu

    チタン事業部 チタン技術部
    インゴット担当
    2012年入社
    八幡工場勤務

  • 松山 遼Matsuyama Ryo

    チタン事業部 チタン技術部
    スポンジ担当
    2012年入社
    茅ヶ崎工場勤務

  • 小林 誠Kobayashi Makoto

    経営管理本部 経営企画部
    経理グループ
    1997年入社
    横浜本社勤務

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