PROJECTSプロジェクト紹介
PROJECTS #02
触媒事業
高活性・高効率の助触媒で、
次世代のポリプロピレン(PP)を創り出せ。
高活性・高効率の助触媒で、
次世代のポリプロピレン(PP)
を創り出せ。
深刻化する環境問題を背景に、CO2排出量を抑えた自動車の開発・普及が進んでいる。自動車メーカーは、環境負荷低減につながる燃費の改善に取り組み、燃費向上に直接つながる「車体の軽量化」を課題として、これまで多くの金属部品がPPをはじめとするプラスチック部品に置き換えられてきた。さらに薄く、軽く、強いPPを作るニーズに向けて、東邦チタニウム触媒事業部は従来にない性能を発揮する新製品『T01-donor™』を開発し、2020年に世界へ向けて販売を開始した。この新製品の開発・販売の最前線で活躍するキーパーソンたちに話を聞いた。
「触媒+ドナー」で多種多様なプラスチック
石油は複雑な構造をした限りある天然資源だ。PPはこの石油を分解・精製した留分から作られるが、作られる過程で重要な役割を果たすのが触媒だ。触媒を用いるとPPを作る際に必要な活性化エネルギーを小さくでき、反応(重合)を促進する。この触媒に添加し、PPの機能を強化するのが、今回取り上げる助触媒、すなわちドナーである。ドナーを用いることによって、PP部材の強度や成型時の流れ性など触媒だけでは作れない、性能・機能をもったPPを製造することができる。
2020年に販売を開始した『T01-donor™』は、従来のドナーよりも強度を確保しながら肉厚の薄いPP部材を製造できる特殊なドナーと位置づけられている。『T01-donor™』を重合時に使用して作られたPP部材は自動車の内外装に使われ、車体の軽量化や高級感・意匠性の向上に貢献する。従来にない画期的な性能を発揮するこのドナーは、どのように開発されたのだろうか。
「PPの立体規則性をコントロールするのがドナーです。」と話すのは触媒生産技術の松下だ。
「同じ触媒を使用しても、ドナーの選択によってPPの物性を変えられます。どの触媒とどのドナーを組み合わせて、どういった立体構造のPPを作り出すかが工業的に関心のあるところなんです」(松下)。
[自動車内外装、家電、食品容器等に利用されるポリプロピレン]
未知の挑戦に協力体制で乗り切る
東邦チタニウムの研究開発チームは、長年触媒とドナーの探索を続けていた。さまざまな触媒とドナーの組み合わせが試されたなかで、ある時、水素レスポンス性能と共重合活性に非常に高い結果を示す組み合わせが発見された。これを製品化し、顧客である石油化学メーカーに供給すれば、従来品よりも丈夫で軽い、特殊なPPを作り出すことができるかもしれない。
「この新しいドナー製造は、技術的にハードルが高いわけではないのですが、自前で製造するとなると有機合成のノウハウが必要になります。これは我々の専門分野ではありません。そこで、有機合成に強い会社とタイアップして開発を進めることにしました」(松下)。
東邦チタニウム触媒事業の強みは、スポンジチタンを精錬する工程から触媒の原料を自社内で確保できること。世界最高水準の性能、品質安定性をもった触媒を製造しているが、一方で有機合成のドナー開発は単独では難しい。受託製造会社の協力を得て、東邦チタニウムが目指すドナー開発が進展した。
「期待以上のパフォーマンス」という課題
「研究者から、この新しいドナーは共重合活性が非常に高いと知らされていました。しかし、重合して実際にPPを作ってみないと期待する性能が出るかどうかはわかりません。これをきちんと評価するのが私の仕事です」と話すのは、製品評価担当の髙木だ。
「新しいドナーを触媒に数ミリグラム添加しただけで、反応容器がパンパンになるほどのPPが生成できました。従来の触媒では得られない高いパフォーマンスです。反応が良すぎてミリグラム単位で調整する必要がありました。少しの計量誤差でPPの性能や評価結果ががらりと変わってしまうからです」(髙木)。
触媒の性能を見るだけでなく、今までの評価手順が通用しない可能性もあったため、髙木は何度も重合を繰り返し行った。標準的な触媒を2つ使って反応させてみたり、触媒の種類や量を変えて実験を繰り返すなど、さまざまなパターンの結果を得ていった。
「重合の結果を触媒開発者に見せて、これならイケそうだという言葉をもらったときに、ああやっと完成できたと思いました」(髙木)。
のちに『T01-donor™』と呼ばれる新しい製品が完成した瞬間である。
[重合装置]
高性能・低コスト化を両立させる挑戦
「新しいドナーは開発コストが高く、このまま価格に転嫁したらお客様は買ってくれない。どうすればコストを下げられるか、技術部門との調整が続きました」と話すのは企画営業の中村だ。
通常、触媒製品は顧客が求める物性や要望に基づいて細かく改良していくのがこれまでの製品の作り方だった。しかし今回の新しいドナーは次元が違うまったくの新製品。高い性能を発揮するが故に高い技術力が必要となり、加えて少量生産のため、汎用品に比べてコストはどうしてもかさんでしまう。商業的に見合う価格になるまで、コストをいかに下げるかが大きな課題になった。
「2019年に当社の研究者が『T01-donor™』を学会に発表したことがきっかけとなり、複数の顧客から多くの引き合いをいただくことになりました。量産効果で原料のコストを下げる目途が立ちました」(松下)。
こうして2020年、小規模ながらスタートを切ることができた。在庫確保、供給体制の構築には営業も大きな役割を果たした。
「営業としては、メインで扱っている触媒以外にもいろいろな製品を扱っていることを広くお客様に知っていただきたいと思っています。PPの性能を支配的に決定する触媒とドナー、その両方を扱い提案できる東邦チタニウムは、競合他社と比べて絶対的に有利です。『T01-donor™』のすばらしい性能が知られるよう販売強化に努めます」(中村)。
[触媒の工場]
新製品初出荷の隠れた課題
「お客様に納入することが決まった段階で出荷の手続きを私が受け取ります。『T01-donor™』は新製品なので、輸送方法や梱包形態・容器の決定、さらに安全性に関わるデータシート(SDS)の作成など、既存製品の取扱いにはないいろいろな経験をしました」と話すのは企画営業部ロジスティックス担当の出口だ。
今までにない化学製品のため、輸出先の法規制や条件に適合するかどうか検証する必要があった。作業は広範囲で他部署と連携して進められた。出口は、どの業務がどれだけ進捗しているかをタイムリーに管理していった。
「輸送する船会社や航空会社にとっても初めて扱う製品なので、さまざまな問い合わせが入りました。こうした一連の手配を経験したことで、業務に対する知見が広がったと思います」(出口)。
新型材料の「開発×販売」で未来を拓く
2022年現在、『T01-donor™』は国内外の石油化学メーカーからの引き合いが増えている。東邦チタニウムの触媒と『T01-donor™』を使用して製造されたPP部材は、新しいPP製品として、今後自動車や家電製品といった完成品に組み込まれていくだろう。
『T01-donor™』は技術力だけで作られるものではなく、また営業活動だけで顧客に採用されるものでもない。開発と営業が共に連携し、顧客や社会が必要とする材料とは何かを突き詰めていった先の大きな成果だ。新型材料で世界を変えることができる。東邦チタニウムなら、その影響の大きさを実感できるだろう。
PROJECT MEMBER
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松下 悦啓Matsushita Etsuhiro
触媒事業部 触媒生産技術部
2009年入社
茅ヶ崎工場勤務 -
髙木 直哉Takaki Naoya
触媒事業部 触媒生産技術部
2006年入社
茅ヶ崎工場勤務 -
中村 岳Nakamura Gaku
触媒事業部 触媒企画営業部
2012年入社
横浜本社勤務 -
出口 江里Deguchi Eri
触媒事業部 触媒企画営業部
2018年入社
横浜本社勤務